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パン屋さん開店

2022年5月、奈良の雑司町にて、「ア・コテ・ド・リジエール」というパン屋さんが開店しました。

直接足を運んでパンを選ぶパン屋さんではなく、ネット上でパンを注文すると、冷凍便で届くという新しい試みのお店です。冷凍便は一番おいしいタイミングをプロが逃さず冷凍し、作りたてそのままの味を好きな時に楽しめるということで、店舗を構えていても冷凍便を始めるパン屋さんは各地で増えているそうです。

そして今回、ア・コテ・ド・リジエールさんの開店にあたって、ショップカード、ロゴ、ハンコ等のデザインを担当しました。

 

デザインが決まるまで、工房に伺い、パンを試食させてもらい、その想いをたくさん聞かせてもらいました。

ア・コテ・ド・リジエールさんは個人で営むパン屋さんです。パンの試作を重ね、注文を受け、パンを作り、発送するまでの工程をすべて一人でこなしています。

そんな店主さんですが、パン屋になりたいという想いを一度断念した時期がありました。ある日突然やまいの診断を受け、入院生活を余儀なくされました。

焼きたくてもパンを焼けないという中で、パンを焼きたいという想いはどんどん大きくなっていったそうです。たくさんの人たちに支えられ、退院をした店主さんは、自分が周りの人にできることはなんだろうかということを一心に考え、一度は諦めた「パン屋を開くこと」へと戻ってきます。

 

お店を開くということは大きな決心が必要です。やらないという言い訳はたくさん見つかりますし、一度やると決めても、くじけてしまうことはとても簡単です。

でも気持ちに正直に生きると身体も喜ぶ。そして何よりもたくさんの人に恩返しをしたい。自分が人の心を動かすことができること、それはパンを焼くことだと、ついにア・コテ・ド・リジエールを開店させました。

 

そんなお店の開店をデザインという形で応援させてもらいながら、私たち絵本屋の根底にあった想いを見つめ直しました。お客さんがほっとする場を作りたいと、私たちは日々の時間を大切にしようと開店の際に決めました。いつ来てもいつも変わらず存在していて、確かな絵本があって、美味しいコーヒーがあること。それを極めていくことで、お客さんの心を少しでも動かすことができたらと思っています。それは気になる絵本に出会ったわくわくかもしれないし、おいしいコーヒーに落ち着く静かなひと時かもしれません。

 

SNSやネットショップが広く普及している今、お店を開くという選択肢が身近になってきました。だからこそ、同じような想いをもった人は増えているかもしれません。でもそこに飛び込むのはほんの一握りで、その人たちの根底にあるのは、少しの思い切りと、心の中に灯った熱意だと私は感じます。そんなお店がこれからもどんどん増えていき、同時になくなってもいくのでしょう。続けていくのは簡単ではありませんし、熱意が足りなければ続かない仕事かもしれません。

 

今の子どもたちは選択肢が増えた分、自分の夢中になれることを確信することが、仕事を得ることにつながっていく、そんな厳しいけどわくわくする時代に生きているのだと改めて感じます。

 

ア・コテ・ド・リジエールさんのパンは、卵、乳製品、ナッツ類を使わないパンです。

体にやさしい素材を使って、確かな技術で丁寧に作られたパンは、真心の味がします。