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新しくできた本棚のはなし

たとえ小さくても本屋という自分の店を持つということは、店の本を自分で選ぶ権利を得ることだと思います。本屋を開く人はまずはその事実にわくわくするのではないでしょうか。私はもれなくそうでした。

でもそれは店を始める前のこと。いざ開いてみると気づくことがあります。

店の本を選んでいるのは、本当はお客さんかもしれないと。

 

ちぇすなっとには4000冊の絵本を中心とした本がありますが、お客さんに尋ねられた本があったことは、開店当初は10回に1回くらいでした。

恥ずかしい話ですが、尋ねられた本を知らないということもよくありました。減りはしましたが、今でもあります。

開店から3年がたとうとしている現在は、尋ねられた本は5回に1回くらいは「あります」と答えられるようになりました。3年の間にそれだけ選ぶ本が変化したのです。求められている本を積極的に選んでいくようになりました。

 

自分が良いと信じる本と、お客さんに求められている本と。店に置く本の量の比率をどうしたらいいか。本屋という店を持った人はきっと同じような問いに行き着くのだと思います。どれだけ本棚を作っても、そこに置ける本の数は限られていて、スペースは足りない気がします。表紙を見せて置きたい本があったりすると、たったの1冊で、絵本だと20冊ほどの本が行き場を失います。そんな限られたスペースに、自分が良いと思う本を置くのか、それともお客さんが喜ぶ本を優先させるのか。店に来てくれるお客さんと本とが頭の中でつながるようになってくると、その問いはさらに複雑になります。

 

オープン当初お客さんの顔が見えない状況で選んでいた本は、きっとたくさんの人が気に入ってくれるだろうと予想した本と、全ての人が好きではないだろうけどもなんとしても置きたいという本と、その比率は半々くらいでした。後者の本はあまり売れないということは、オープンから3年で嫌というほど実感しました。でも不思議なことに、ずっと売れなかった、でも良いと信じて置いていた本ばかりを何冊も抱えてレジに持ってきてくださるお客さんが不意に現れることも何度も経験しています。そんなお客さんに背中を押されるように、なんとしても置いておきたい本は、減りはしたものの、今でも店の3割ほどを占めています。

 

3年が経とうとする今、その割合を当初の半々に近づけてもいいのではないか、そして本の広がりに少し変化球があってもいいのではないかという思いが生まれてきました。お客さんから求められている本を引き続き大切に選んでいくのと同じくらい、こだわりのある本を選ぶことも又、店の大切な軸や個性となると。ちぇすなっとに置いておきたい本はどういった本か、改めて考え直しています。

そんな中、私の思い出の中には絵本以外の本もたくさんあるということに思いあたったのです。

 

前職は、チルドレンズミュージアムで自然科学を子どもたちに体験してもらう仕事でした。10年間たくさんの子ども達に出会い、実践を深めながら、子どもが自然科学を楽しむ仕掛けや場づくりを考え続けました。

子どもの頃は海外の映画が大好きで、英語に興味を持ち、中学高校はラジオ英会話を聴き続けていました。好きが高じてイギリスの大学へ行きました。専攻は物理でした。朝から晩まで物理と英語漬けの日々を過ごしました。その時に支えとなった本が何冊もあります。

英語、科学、自然、教育。私が心から「いいですよ」と勧められる本はその世界を体感しながら読んできた本にこそあるのかもしれません。

 

今年から店の一角に英語の棚と自然科学の棚を作りました。

絵本屋ですので、もちろん中心となるのは絵本です。まず、既にちぇすなっとの本棚にたくさんあった英語の絵本、科学の絵本、自然の絵本をさらに充実させました。そしてその絵本につなげるように大人の方向けの本や専門性の高い本も加えました。そういったどちらかというと偏りのある本もきっと喜んでくれる人がいるだろうし、何より自分の経験と共に勧められる本が少しでも店の一角にあることは、本屋としての支えになってくれる気がしています。

 

今後も少しずつ充実させていき、深みのある棚を作っていきたいと思っています。

そしていつかその棚が、ちぇすなっとの個性として、お客さんに受け入れられ、求められるようになったら本望だなと思うのです。