
久しぶりにミルフィーユ鍋を作りました。
白菜と豚肉をミルフィーユのように交互に重ねて並べ、生姜と出汁と酒を加えて鍋で煮込むだけ。とても簡単で野菜がたっぷり摂れるこの鍋を、多い時は週一で作っていました。
ですが長男が生まれてからは、切って並べるという「少しの手間」がとれなくなり、しばらく遠ざかっていたのです。長男が大きくなって手間をかけられるようになっても、その頃にはそうしたいと思えない、せわしない暮らし方をしていました。
ちょっとでも時間があったら店の仕事を。
ちょっとでも時間があったら自分の事を。
長男が生まれ、お店を運営するようになり、自分の時間が取れなくなったことに焦り、限られた時間内で仕事に集中する器用さもなく、空回りしていました。いつの間にか何をするにも損得の秤にかけるのが癖になり、成果のでない時間は無駄と感じるようになっていました。
そんな中、次男が誕生しました。
8年ぶりの赤ん坊は今5ヶ月。元気に寝返りを繰り返しています。
妊娠し、できないことが増えました。子どもが生まれ、さらにできないことが増えました。今までのペースでは走れなくなり、お店の運営方法も改めて見直すことになりました。
例えば本棚。ちぇすなっとの本棚は、ざっくばらんに並べている様で、実は隣り合う1冊1冊がゆるくつながっています。カバーの色合いだったり、作者だったり、物語の構成だったり、テーマだったりが似通ったものを繋げて本棚を作っています。堂々と言うのもなんですが、雰囲気重視です。
お店の中にはわかりやすいテーマで分類している棚もありますが、1冊1冊を繋げるように並べている本棚はやはり一番大切にしています。
でもそれはものすごく曖昧で、誰かにバトンタッチできる賢いやり方ではないのです。だからずっと、夫婦で運営している店ですが、大まかな本の並べ方は相談して一緒に並べても、微妙な配置は私が一人で担っていました。
出産を機に、しばらくの間本棚の整理は夫が全面的に引き継ぐこととなりました。その為にわかりやすく分類すること。本の数を減らすこと。ややこしいこだわりなどは捨てなければなりませんでした。
それでもわかりやすさからは程遠い棚を、夫は今も毎日欠かさず整理整頓し、繋いでくれています。誰かのリズムで並べられた本棚を整理し続けるのは、とても難しいことなのに。
私よりもずっと丁寧な夫の手によって、ちぇすなっとの本棚がいい意味で変化しています。何よりもこれを機に本棚に関して客観的に整理できたことはいい機会でした。
本棚のことに限らず、できていたことができなくなるのは、とてももどかしいことでした。
でもちぇすなっとへのこだわりを一旦手放して、俯瞰する中で見えたこと、それはお店にしても子育てにしても、自分一人が頑張っているわけではなかったということです。
子どもが2人になって慌ただしさに拍車がかかっても、長男が赤ん坊だった頃に比べ、今回は見える景色が違います。いつもどこかにちぇすなっとのこと、お店と子どもを共に育てている夫のこと、次男を愛でてくれる長男、ちぇすなっとに今日も来てくれる人たち。周りの存在を感じながら、次男と向き合っています。
だからこそ作れた、久しぶりのミルフィーユ鍋なのです。
白菜と豚肉を均等な長さにカットして、重ね合わせ、ひたすら並べる。長男がコロコロコミックを読み、次男がベットで寝ている静かな夕暮れ時に、その単純作業に集中していると、あたたかくゆったりとした心持ちになりました。最短の時間で成果を上げることだけでは見えないものが、ミルフィーユ鍋を作りながらやっと見えた気がしました。
今、店の切り盛りは夫が一人で担当しています。朝店を立ち上げ、お客さんを迎え、片付けをする。その全てを一人で担ってくれています。
私は定期的にちぇすなっとの本棚を整理しに行けるようになりましたが、それ以外は家でできることを担当しています。本の仕入れをしたり、HPの更新をしたり、新しいチラシを作ったり。家事と子育ての合間に少しずつ取り組んでいます。
毎晩帰宅した夫から、「今日はこんなお客さんが来た」「こんな本の問い合わせがあった」という話を聞きながら、次はあの本を仕入れよう、こんな本を並べるコーナーを作ろうと、あれこれ考えることが、子育てを頑張る活力となっています。
ちぇすなっとは今日で5年を迎えました。
頑張ろうとすると心が忙しなくなってしまうゆとりの少ない世の中です。ちぇすなっとでの時間は、お客さんにとってはいつもの日常の少しの気分転換。心が少しでも軽くなるきっかけになれたらと思います。
そのために私たちも心にゆとりを持って、あえて遠回りしながら、手をかけながら、ちぇすなっとを育てていきたいです。
子どもが増え、できないことも増えました。でも遠回りすることで、心が緩やかになりました。一歩進んで五歩くらい下がっても、子どもの笑顔につられて笑いながら、仕方ないかと思えるようにもなりました。あのまま無我夢中で走り続けなくて良かった。今までとは違う価値観で仕事と向き合っています。
0才は成長がめまぐるしい時期。おそらく私たちの働き方もしばらくは変化し続けるのだと思います。
そんな時だからこそ、6年目を迎えるこの一年は、ちぇすなっとを再構築する一年。頭が煮詰まった時には料理に手間をかけ、できるだけ心に余裕を持たせて、先のことを考えていきたいと今は思っています。
いつもちぇすなっとを気にかけてくれている皆様、5年間ありがとうございます。
これからも、ちぇすなっとをよろしくお願いします。